西荻窪のはずれ、青梅街道の1本裏手の路地を曲がると、真っ赤な家が見えてくる。出っ張ったテラスが特徴的なベンガラ色のエアロハウスだ。
この建物が、普通の住宅ではないことが、一目瞭然。そう、ここは、住宅兼シェアハウスで、イベントカフェも運営している。2018年6月からは民泊の登録も。
通りから正面の芝生を抜け、玄関アプローチに向かうと、廊下のような長いウッドデッキになっている。その脇に1階のガラス戸のドアと大開口が並ぶ。窓から広いLDKが見え、キッチンはスケルトン型のシンプルなものだ。
1階には、他に個室が3つあり、そしてトイレ、シャワー室、洗濯機置き場と水回りも完備され、こちらは、シェアハウスと民泊に活用されている。
さて、ウッドデッキを奥に進むと螺旋の外階段があり、2階に上がっていく。玄関を入り、左手には、広いLDKだ。オープンキッチンをすり抜け、中央部あたりに立ち、吹き抜けになっている高い天井を見上げる。ロフトにつながる小さな梯子階段がある。
LDKの奥に、大開口から白いテラスが見える。壁に囲まれ、部屋のようになっているので、LDK全体が広く感じる。そしてテラスと部屋をつなげるように小上がりがある。その下は収納スペースだ。テラスに立つと、屋内と外の中間的な不思議な空間を体感した。
このお宅、竣工は、2017年3月で、そのコンセプトは、「交流できる家」だと施主のKさんは言う。
同氏は、西荻窪に在住して約20年になり、賃貸マンションに夫婦二人で暮らしていた。50歳を手前に、このまま賃貸暮らしよりも、老後に向けて資産として残るようにしたいと考えて、家を建てる決意をした。
そのとき考えたのが、「人とつながれる場」づくりだ。それは、老後に向け、地域のコミュニティがないことの不安からのアイディアだった。きっかけは、父親が亡くなった際に、一人になる母親との同居を考え、打診したところ、母は、今住んでいる場所を離れたくないという意思が固かった。それは近隣のコミュニティがあるのが心強いからだ。カラオケ仲間に昔からのママ友つながりまで、いろいろな交友が近隣にあり、いつも気にかけてもらっているそうだ。
一方、Kさんは近隣との交流がほとんどない。特に住んでいる賃貸マンションなどでは皆無に近い。唯一、西荻窪駅前の飲み屋ネットワークで、常連客とのつながりがある程度だ。因みに、実はそのつながりの一人が、エアロハウスの開発者、村井氏であった。
賃貸マンションでも友人を招いた飲み会をたびたび開催していたのだが、それを前進させて、コミュニティづくりのできる家をつくりたいと考えた。
そこで、西荻窪界隈で土地を探していたが、なかなか予算に見合う物件が見つからなかった。数年かかって、やっと現在の場所に決まったのだ。駅から徒歩18分ということもあり、土地代が駅前から比べると割安になっている。しかしバス停にわずか徒歩1分と近く、荻窪駅へは4系統走って、数分おきに来るので利便性が高い。
青梅街道の前には、井草八幡宮があり、その奥には善福寺公園が控え、緑が豊かな一角だ。
また図書館も目の前にある。Kさんは、長らく西荻窪界隈に住んでいたので、ここが穴場であることを知っていたので、すぐに購入に踏み切ったという。
ところで、土地のサイズは、約27坪で、もともと土地が正方形の1軒家だったものを分筆して販売しているので、道路から奥に細長い。この場所の用途地域は、第1種住居専用地域で、建ぺい率が50%の容積率が100%のエリアだ。しかも北側斜線や道路斜線の絡みもある。
その土地を村井氏に相談し、要望としては、1階をシェアハウスとして貸し出し、2階を夫婦が暮らす場所として、多くの人が集える広い空間にしたいと伝えた。玄関は別々にして、シェアハウスの住人とほどほどの距離感を保ちたいとリクエスト。
当初は、ここまでの要素を入れるのは、難しいと村井氏。用途地域等による制限があるからだ。
そこで、アイディアを練って、村井氏が編み出したのは、建物を一層細長くして南側に寄せてしまうというトリッキーな案だった。
またウッドデッキを北側に配し、廊下のように1階と2階をつなぐというもの。また、そうすることで、北側斜線にかかる部分が減り、ロフトも広く取れるのだ。
北側には3階建て社宅の広い庭があり、近隣の公園の木々等を借景にゆったりした空間がとれる。また社宅の白い建物が日光に反射して、ほど良い光を返してくる。
かくして大枠が決まり、本格的な設計に進んだ。
2016年9月に着工して、翌年2017年3月に竣工した。
予算の関係で、床やデッキはすべて施主やその友人、さらに村井氏等の設計担当者が塗装した。そうすることで、建物に愛着がわいたそうだ。
ところで、Kさんがこだわったのが、テラスだった。以前のマンションでは12㎡のテラスがあり、友人を招いてバーベキューをしたりと楽しんでいた。ここでは、ソファを部屋から持ち出し、飲み会等のイベントも開催。屋外なのにプライベートコーナーのような空間になった。また夜には、白い壁にプロジェクターを投影して、みんなで動画の鑑賞会も実施。
テラスの外のような中のような不思議な位置づけが楽しい。
この外と中の曖昧さこそが、もともと日本の伝統的民家づくりの流れを組んでいる。例えば、かつての縁側や広い玄関などのように、中間空間になっている。
さらに、木の空間を楽しめるのも日本の伝統民家と同じだ。今後、経年変化をしていくのが楽しみだという。
そして、LDKでは自在に変えられるようにもしていて、ソファベッドが2つあり、ときには寝室、ときにはリビング、そしてときにはイベント会場に早変わりする。可変性もこの家のテーマで、日本の伝統民家の暮らし方と通じる。目的に応じて自在に部屋がかわり、宴会場、茶室、寝室と展開される旅館の和室のようだ。
人が集う場所にエアロハウスは木の香りが心地よく、訪ねて来るゲストたちは、のんびりしてしまうそうだ。
どう暮らしたいか、はっきりとコンセプトを持つことで、実現した住まい。自由度の高いエアロハウスだからこそ、成功したのだろう。
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