都心から西武池袋線に乗り、飯能で乗継いだ先に、武蔵横手駅がある。小高い山々が続く里山にある小さな駅だ。駅から徒歩約15分のところに、集落があり、その丘の中腹にこげ茶色のエアロハウスが見える。「日々花家(ひびはなか)」という西式健康教室を開催しているエアロハウスだ。
玄関には、施主のMさん夫妻が迎えに出られ、扉を開けるとすぐにキッチンになっていた。正面奥の納戸スペースには、古材を活用した扉が並んでいる。まず、案内されたのが、20畳の大広間だ。家族の居間スペースと健康道場を兼ねているという。遊び盛りの小さなお子さんのためのおもちゃも並んでいた。
なぜここで、このようなエアロハウスを建てたのか、Mさんにうかがった。
竣工は、2015年6月になるが、ことの発端は、2011年にさかのぼる。当時、夫妻で同じ大手コンサルティング会社に勤めていて、かなりハードワークだったため、健康管理に気を使うようになったという。
奥様は、その年に退職して、ご主人の紹介で西式健康法に出会った。実践してみると、体の調子が良くなり、その健康法に没頭していき、当時住んでいた明大前の家で講座を開くまでになった。この西式健康法は、独自の食事療法と体操があり、また風呂や睡眠など生活すべてにわたる考え方がある。そこで西式健康法をより深く実践してもらえる場が欲しいと思い郊外の里山暮らしを始める決意をした。都心よりも自然が多く残る里山が心地良いと思った。都心では、以前に比べて虫が減ったような気がするとご主人。生物としてのパワーが落ちていて、生物が多様でないところは、体に良くないと考えたのだ。
※西式健康法については、下記アドレスを参照
この日高市は、もともとご主人の実家が近く、土地勘があったので、ここを重点的に探すことにした。また、都心からのアクセスも悪くなく、里山でありながら、十分に日帰りできる距離だ。明大前時代のお客さんにも来てもらいやすい。
2013年から2014年にかけて、古い木の建物が落ちつくこともあり、日高市周辺で古民家を探すことにした。しかし、なかなか適当な物件が見つからなかった。そこで、新築も視野に入れる方針転換をしたところ、すぐに200坪の里山の土地が見つかった。
当初は、小屋のような小さな建物にする予定だった。それは、あくまでも2拠点生活が前提で、里山には週末、1泊程度できれば十分というスタンスだ。
具体的にどのような小屋にするか、いろいろと検索していたところ、エアロハウスのwebサイトを見つけた。基礎がなく、足だけになっているデザインをご主人が一瞬で気に入ったそうだ。大地の生き物を殺さないコンセプトに一目惚れしたのだ。
Mさん夫妻は、実際にエアロハウスのオフィスにうかがい、相談を繰り返した。
エアロハウス設計者の村井氏によると、プランづくりに半年以上の時間がかかり、変更プランもいくつも提案したと当時を振り返る。途中からコンセプトが変わったからだ。
それは、当初案の平日は、都心で暮らし、週末に田舎に住む案ではなく、途中から完全移住に方針転換をしたからだ。
Mさんは、小屋が出来て、2拠点生活しながら、やがては完全移住すべく増築を考えていたが、想定よりかなり経費がかかることがわかった。そこで、今回の第1期工事になるべく要素を多く加えたところ、しまいに週末だけの利用ではもったいないと考えが変わり、完全移住に切り替わったのだ。
そして、2015年6月に竣工となった。
さてこのエアロハウス、「日々花家」のコンセプトは、西式健康法を実践できる場と住居の両立になっている。
それを具現化する仕掛けとして、1つは、大広間を持った。そこを道場として利用することを想定し、西式の体操法ができ、8人がヨガマットを敷いても余裕の空間となった。また、キッチンと壁で仕切ることにより、道場での集中度が増す。
またそこに隣接するテラスは、道場に来られた方々が、ゆっくりと談笑できるスペースのために設けられた。外の自然と家の中間点としてだ。テラスの左には壁を設け、近隣の住宅が視界に入らない気遣いだ。向かいの木々が大きな開口から見え、自然の中にいる臨場感がある。
2つ目が、キッチンだ。西式の食事法が学べる料理教室ができるように、アイランドキッチンにした。またMさんの奥様は、自分で調味料などを上手く収納できるスペースを設けていた。
3つ目が、バスタブを3つ持ったことだ。西式には温冷療法があり、暖かい湯と冷たい水風呂の2つに入浴する。
さらに、健康法とは別で、畑仕事の後に泥を外で流せるようにバスルームの外側に囲いを設けシャワースペースを付帯したところ、ついでに露天風呂も追加したそうだ。自然を満喫できて心地よいとご主人。
ところで、建具が古材を使われているのもここの特徴だ。もともと古民家に住みたいと考えていたMさん夫妻にとっては、新しいものだけでは面白くないと感じたという。
村井氏に相談したところ、新木場にある木材のリサイクルショップを紹介され、一緒に訪ねて建具を選んでもらった。そのショップには、建具だけでも1000枚ほど並んでいて、すべて古民家を解体したものだ。
道場らしい風合いが出たとMさん夫妻は大満足だという。
村井氏によると、昔の建具は天地が低いため、逆にそれにあわせた壁や収納を設計した。
Mさん夫妻は、広い庭で畑仕事もしたいと考えていた。それを伝えると、緩い斜面の土地なので、日当たりをシミュレーションしてもらい、そのうえで、建物の位置を決定したという。
また、建物は、エアロハウスのα(アルファ)型といって、足があるタイプだ。ご主人は、自分が家を建てることで、その下の土が、虫も住めないようになるのが嫌だった。エアロハウスを選んだ理由も大地を傷つけない家ということもあり、実際に雑草が、床下に生えていて、さらに物置代わり庭仕事の道具等が置かれていた。
近年、西式健康法を1カ月など長期で集中してやってみたいという問い合わせが増えている。宿泊の場合は20畳の大部屋で寝起きすることになるが、長期の滞在ではもう少しプライベートな空間も必要なのではないかと感じている。西式健康法の道場として認知度があがってきたら、滞在者が利用できるゲストルームになる小屋を検討したいそうだ。
里山のエアロハウスの道場、さらなる可能性もありそうだ。今後の展開が楽しみだ。
<日々花家>